熊を追って 田子倉山の一日 (昭和45年(1970年) 4月23日)![]() |
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朝食も終わりお茶を呑みながら各自支度にかかる。双眼鏡、写真機、トランシーバー、鉈(なた)、皮むき小刀、ロープ、弁当、弾、銃と支度の出来た者より表に出て、急の雪渓を歩くのにすべらないように、長い爪のある雪山カンジキを履く。最後に小屋を出る人が火の仕末をする。燃え残りの薪は全部表に出して、炭火だけにしてスコップで灰をよくかけて火がもれないように充分確めて小屋を出る。 全員小屋の前で支度ができると、揃って小屋の裏に立っている樹齢200年余のブナの大木に祭ってある山神様に集まり、リーダーが青木を切って供えて、山の無事と大猟を祈願する。
白戸川添いに雪渓を踏みながら中尾根を目指して登って行く。途中雪崩の危険の場所があり、見張りをつけて一人一人注意して通って30分程で中尾根の下に到着する。尾根までの登りが雪渓の急斜面で、先に登って行く人の足が自分の頭のすぐ上にある。あまり近づいて顔を上げようものなら、前に歩いている人の足で顔を蹴飛ばされるので注意しながら、間隔をおいて一人一人上って行く。間違ってすべりでもしようものなら一直線に沢まで落ちて行く事になる。 そんな状態ですので、一歩一歩慎重に金カンジキの爪を雪渓に突刺して登る。やわらかい筈の春の陽射しも急雪渓の登りは体力の消耗が激しく、真夏の太陽のように暑く感じる。流れるように出てくる汗を拭きながら息をはずませて登る。 尾根に登りつく。背負っているリュックをほうり出して尾根に寝ころぶ。汗を拭きながら煙草に火をつける。この一服のうまさは最高です。やっと人心になる。
海抜の高い尾根から見る景色は素晴らしい。春霞にかかった尾根の稜線が幾重にも重なって、墨絵をぼかしたように薄黒く、遠くはぼけてかすんで見える。じっと見とれていると自然界の偉大さに引き込まれて何時まで見ていても見飽きない。こんな雄大なる景色を見ていると、自分の心までも大きくなったような錯覚がしてくる。 尾根には、春一番に咲く「まんさく」の黄色の可憐の花が咲いている。そっと鼻を近づけて春の香りを嗅ぐ。この花は、冬眠より目覚めた熊の餌にもなります。真白の雪の中より出た枝に黄色い可憐の花をいっぱい咲かせる「まんさく」の花、雪の白と花の黄色、自然界のなす技です。山はまだまだ残雪が多く、山の半分位は雪で覆われております。 |
![]() 直径1m ・ 山神の祭木 |
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![]() 山神様に参拝 |
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![]() 尾根で一服 熊のつきそうな山の斜面を探す |
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![]() リ ス |
![]() シャクナゲ |
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