熊を追って 田子倉山の一日 (昭和45年(1970年) 4月23日) | |||||||
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全員熊のところに集まり、つい先刻の出来事が話題になって、信也の逃げる顔が見たかったと大笑いになる。 早速に熊を全員で取り囲んで「とな声」をあげて、皮むきが始まる。50キロ余の熊は見る見る間に皮がはがされ、肉が手際よく処理される。熊の皮むきが始まると捨てる熊の臓物にありつきたいと、上空にイヌワシ2羽が高く低く旋回している。時折待ち切れないのか低く突っ込んでくる事がある。 午前11時過ぎに熊の解体は終了して、各人荷を分配し、背負って、先程逃げて行った小さい熊の足跡を辿って尾根に背負い上げる。何時もの事ならゆっくり休みながら背負い上げるのに今日は違う。先程青物平に入って行った熊がいるので一気に尾根まで背負い上げる。時計は12時少し回っておりますが、尾根に荷物をまとめて中食にする。昼食後一服して青物平に入った熊の相談をする。ここでいくら相談をしても埒があかず、早速に熊の足跡を追うことにする。
熊は尾根よりクズレの青物平に一直線におりている。一応確認の為クズレ沢の全域の見る台まで全員で行き、クズレ沢一帯を丹念に熊の姿を探す。いくら見てもくまの姿は見えないので、熊は青物平に入って止まっているらしい。 足の下の手前の斜面を巻くので熊を見てから巻く事は出来ず、目当無しの巻で「ズス巻」と言う。勢子は隆男と正義の2人勢子で、沢よりと中段を追うことにする。横ばきにしてクズレ沢に熊を追込んで、クズレ沢の上平より勢子をかけて小生のでるクズレ沢の下尾根に追い上げて撃つ事にする。吉也は青物平の熊の入ったところの上に出る。国保はクズレ沢に入った熊を撃たれる場所を見つけて、そこに出る。信也と梅夫はクズレ沢の上平の見晴らしのよいところに出て目当と勢子をする。正也は吉也の下に出てイデシの肩をする。 人の配りも出来て、尾根より勢子が2人でおりて行く。今回の巻は山登りがないので30分もかからず巻の態勢が出来上がる。
クズレ沢の下尾根を下って待場に出る。小生の出た場所より100m程下の松の根元に、先程入った熊とは比べものにならない大熊が腰をおろして下の方を見ている。早速全員に巻の中、小生の出ているところの下に大熊が入っている事をトランシーバーで連絡する。 一気に意気が高まり巻が始まる。勢子が鳴りをかけると大熊は勢子の方向におりて行く。信也達がクズレ沢の上平に出る時、大熊に感づかれたのか、それとも大熊特有のこれ以上、上に登ればハンターがいる事を知っている熊で下の方に下がるのか。勢子に連絡して大熊はどんどん下がってイデシに出るので、隆男は早く巻の中に入り熊を追い上げるように連絡する。隆男に追われて大熊は吉也の方向に一足一足ゆっくりと登って行く。 これで一安心と喜んで見ていると、大熊は吉也の下の雪壁のところまで登って、雪段に尻をついて下の方を向いて休んでいる。下方にいる小生のところより見ると、熊と吉也は10m余りしかないように見えるが、吉也は雪壁が邪魔して熊が見えないらしく、只、下の方を見ている。見ている小生は気が急くばかりです。その内に大熊は何を思ったのか急に小生の下の方向に駆け下りてクズレ沢に入る。信也が大声を出して追っている。 その内に、大熊は光義兄のところに登って行くと、信也が生の声で怒鳴りながら連絡してくる。私の現在いるところは、吉也のところに大熊を追い上げる為に下におりたので、柴が密生しており、熊が登って来ても柴が邪魔してとても撃てそうも無い。 |
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